ミステリ&冒険!唯一無二の巨星・乱歩の長編傑作。 『孤島の鬼』 江戸川乱歩
こんにちは!
今日は乱歩の長編作品を紹介します。
孤島の鬼 / 江戸川乱歩 (創元推理文庫)
あらすじ
密室状態での恋人の死に始まり、その調査を依頼した素人探偵まで、衆人環視のもとで殺された蓑浦は、彼に不思議な友情を捧げる親友諸戸とともに、事件の真相を追って南紀の孤島へ向かうことになった。だが、そこで2人を待っていたのは、言語に絶する地獄図の世界であった…!『パノラマ島奇談』や『陰獣』と並ぶ、江戸川乱歩の長編代表作。
『孤島の鬼』江戸川乱歩 表紙裏より
感想
明智小五郎は出てこないよ
最初に言っておきます!
この『孤島の鬼』には江戸川乱歩の超有名なキャラクター、「明智小五郎」は出てきません。
しかし彼の長編作の中でも最高傑作と呼び声の高いのがこの作品です。
ミステリと冒険(あと恋愛)が融合された大満足な一冊です。
登場人物
箕浦金之助 ・・・ 本編の語り手。美青年。
諸戸道夫 ・・・ 箕浦の友人。箕浦に好意を抱く。ハンサムガイ。
諸戸丈五郎 ・・・ 道夫の父
深山木幸吉 ・・・ 素人探偵。箕浦の友人。
秀・吉 ・・・ 双生児
北川刑事 ・・・ 池袋署の警察官
主人公の白髪・妻の太腿の大きな傷の痕
この作品は終始、主人公の私=箕浦金之助の一人称で語られます。
冒頭の「はしがき」で、主人公・箕浦が三十にもならないのに濃い髪の毛が全て白髪になっていること、
彼の妻の太腿に恐ろしく大きな傷の痕があることが語られる。
この二つの事実には、とある恐ろしい奇怪な出来事が関係する。
この作品は、その奇怪な出来事を経験談として箕浦が物語を書いていくという構成で進んでいきます。
密室&衆人環視での殺人
この作品の評価が高い一つの要因として、
乱歩が作中で「密室殺人」と「衆人環視の殺人」という二つのトリックに挑戦していることが挙げられます。
まず箕浦の恋人・木崎初代が彼女の家で殺されてしまいます。それは密室殺人だった。
そして彼女が大切にしていた「系譜図」をいつも入れていた手提げ袋が無くなっていた。
しかし「系譜図」自体は、箕浦が初代に結婚指輪を渡した際、
命より大事なこれを…と初代が箕浦に渡していた為無事であった。
初代は3歳の時に実の親に捨てられ、その際にこの「系譜図」を持たされていた。
しかし「系譜図」自体は肝心なところが破れていて、彼女の身元は分からないのだが、
初代はそれをとても大事にしていた。
***
初代の復讐を誓った箕浦は、友人の探偵・深山木に調査を依頼する。
手がかりを掴んだという深山木から連絡を受け、海水浴場で会った二人だったが、
白昼堂々の衆人監視の中で、深山木は何者かに刺され殺されてしまう。
この二つの殺人事件、この作品のほんの冒頭なんです。
というかこの後から始まる冒険の序章です。
かなり贅沢です。
同性愛
ストーリー的には前後しますが、この作品を語るうえで外せないのが「同性愛」の要素です。
箕浦が初代にプロポーズした後、初代に猛烈にアプローチする男が現れる。
学歴・家柄・収入すべてにおいて箕浦を凌駕するその男は諸戸という箕浦の友人であった。
学生時代に諸戸と知り合ったのだが、諸戸は女性嫌いで、箕浦に好意を寄せていた。
彼は箕浦に愛の告白をしたこともあった。
箕浦自身は女性が好きであったため、諸戸の好意に応えることは出来なかったが、
立派な諸戸に好意を寄せられている事実は少なからず箕浦の自尊心をくすぐり、まんざらでもなかった。
そんな経緯があったので、諸戸が自分と初代との間を裂くために初代にアプローチしたのではと疑う。
***
この後、いろいろあって、箕浦は諸戸と冒険をともにすることになります。
この作品、いかにも乱歩!といったおぞましい描写がたくさん出てきて、それがこの物語をまた盛り上げているわけです。
しかし、この諸戸の箕浦への同性愛の心理描写もまたこの作品の重要なファクターとして生きてきます。
乱歩の前に乱歩なく、乱歩の後に乱歩なし
上記の文は、この『孤島の鬼』の文庫の帯に書かれていた言葉です。
この作品を読むと、この言葉がよくわかる。
乱歩は乱歩的なエンターテイメントを提供してくれる唯一無二の偉大な作家です。
おわりに
今日はミステリ界の巨人・江戸川乱歩を紹介しました。
乱歩の作品の中でもこの長編作品はかなりオススメです。
ほんとうに面白いので、ぜひ読んでほしいです!
♦江戸川乱歩 <1894-1965>
江戸川 乱歩は、大正から昭和期にかけて主に推理小説を得意とした小説家・推理作家である。また、戦後は推理小説専門の評論家としても健筆を揮った。実際に探偵として、岩井三郎探偵事務所に勤務していた経歴を持つ。 本名は平井 太郎。日本推理作家協会初代理事長。位階は正五位。勲等は勲三等。